どあばん

技術士試験生物工学受験記

生物工学部門で一次試験に合格し、2012年度に生物工学部門:細胞遺伝子工学で二次試験に合格した。正直あまり真面目な受験生ではなかったが、合格までの記録を残そうと思う。

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Agenda

  1. 春の受験申込
  2. 夏の筆記試験
  3. 秋の技術的体験論文
  4. 冬の口頭試験
  5. 春の最終合格発表
  6. 参考資料

1. 春の受験申込

最初に申し上げておきたい事であるが、非常に残念なことに、私は直前にならないと動けない人間である。そのような人間の技術士二次試験(生物工学部門)受験記であることを、予めご了承願いたい。また本ページは、2012年(平成24年)度の試験内容についての記載であり、現行試験内容とは異なっている。しかし、学ぶべきことや取り組むべきことについては、基本的には変わらないと思う。

理系としての常識:基礎科目技術者としての常識:適性科目専門分野の常識:専門科目を問う技術士一次試験(2011年10月)を受験し、自己採点での合格を確信していた。一次試験の合格発表に先立ち、受験機関の技術士第二次試験合格対策講座(通信添削のみ)に、11月から入講「だけ」はしていた。12月末に一次試験に無事合格するものの、教材を用いた特段の二次試験のための勉強は無いままに、2012年4月の春の受験申込シーズンを迎えることになる。


対策講座のテキストを斜め読みして二次試験の受験申込書を作成し、生物工学部門の選択科目:細胞遺伝子工学にて日本技術士会に申し込んだ。「二次試験は受験申込書から始まっている」ということは聞かされていたので、経歴欄は大学院研究経歴2行、業務経歴5行で、すべての経歴が技術士法2条で定められた業務である「計画、研究、設計、分析、試験、評価またはこれらに関する指導の業務」の何れかに引っかかるように記載し、万全を期した。実際の記載例としては、「細胞内蛋白質分解機構によるアミノ酸プールとタンパク質合成能維持に関する研究」「次世代型シーケンサーによる配列解析に関する、受託研究プロジェクトの設計・管理」といった具合である。

11月からの講座在籍であったので、半年後である4月末までに3回分の課題(筆記試験必須科目過去問1回分、選択科目過去問1回分、技術的体験論文)と受験申込書の添削を提出しなければならなかった。全くもって残念な人間ゆえに全く手を付けていなかったので、4月21-22日の週末2日間で半年分の課題を必死に書き切って、23日に投函した。何故なら24日から1週間の欧州海外出張であったため、この週末が期限内提出のためのラストチャンスなのであった。翌24日午前の成田空港フライアウト直前に、受験機関の担当者から電話を貰う。「筆記試験の添削には時間がかかるが、受験申込書の添削は申込期限に間に合うように特急で対応したいと、講師の先生がおっしゃっている」との旨であった。受験申込書は既に提出済みであったが、念のため特急対応をお願いする。

ミュンヘン郊外でのハードワークが終わると、受験申込書の添削結果がメールで戻ってきた。真っ赤な添削結果を見て、私は真っ青になった。「業務に従事した期間」と「専門とする事項」には最適な記載がされておらず、明らかに差し替えが必要な状況である。当地から日本技術士会に受験申込書差し替えの可否についての連絡を入れ、帰国後すぐに差し替えさせてもらった。受験機関の担当者の方と添削講師の先生のご協力が無ければ、本当に危ない状況であったことは明らか。このような場ではあるが、改めて御礼を申し上げたい。

2. 夏の筆記試験

試験対策

程なく筆記試験の添削結果が返送されてきた。必須科目61点、選択科目76点、技術的体験論文62点と60点合格ギリギリであったが、まだ無勉状態であったので良好な出来であると自己評価した。5月ごろは講座のテキストを熟読して、テクニカルライティング一般についての理解を深めてゆく。内容は当たり前のようなことばかりであり、顧客への技術説明メールや提案書で当然のように実践してきたことであるが、自らのライティングが正しかったこと確認する形となり、実務においても試験に向けても大きな自信とはなった。

基本的な論文構成は、以下のような形式となる:

  • 起:序論:概要、特徴
  • 承:序論:課題、問題点
  • 転:本論:解決策、応用方法・効果(成果)
  • 結:結論:将来展望(反省点)

転:本論で論展開する場合の、内部3段構成は以下のような形式となる:

  • 一般に~であるが、私は~と考える。その論拠は~である。
  • そこで、~といった解決策・応用方法を行う。
  • その結果、~といった効果・成果が得られる。

生物工学部門の過去問を分析すると受けの大きなオープンクエスチョンというのは少なく、解答の内容を狭めるような限定が設問に多数含まれる。そのため、残念ながら必ずしもこの形式での論述展開ができる訳ではないが、頭の隅には入れておくようにした方が良い。あと、筆記試験で図を使うように促しているが、生物工学部門では必ずしも必須ではなく、ケース・バイ・ケースで対応したい。

添削答案を作るときはWikipediaを参考にしながら行っていたが、当然のことながら本番ではネット参照はできない。しかしながら脳内記憶容量と記憶に必要な時間には限りがあり、学習内容・暗記内容を効率化する/狭めることが、少なくとも自分には必須である。昨年まではMOT専門職大学院に在学しており、幸いにも幾名かの技術士と交流する機会があった。同期の技術士(電気電子部門)からは、「キーワードは大体予想できるので、それについて書きまくれ!自分はノート一杯に書きまくった。」という貴重なアドバイス頂いた。これを最小労力で実践するために、受験機関の生物工学部門テキストのキーワード一覧をそのまま拝借し、ノートに自筆では疲れるしハンドリングが悪い(コピペできない)ので、MS Word上に電子的に作成していった。Wikipediaや実験医学online バイオキーワード集といったネットコンテンツや、所有する書籍をソースとして活用し、コツコツと編集・暗記していった。6月後半から7月にかけての作業で、最終的には74ページ分にまで膨れ上がった。ここで大事なのは、単にキーワードに関する技術説明を書き溜めるだけではなく、現状の問題点から技術展望までを論述することが最も重要である。「植物体の形質転換」の場合を例に挙げると:

  • 起:アグロバクテリウム法とTiプラスミドの技術説明
  • 承:しかし、選抜マーカー(外来)遺伝子が形質転換植物に残り、食料にする際に消費者の抵抗を招くリスクの提示
  • 転:「選抜マーカー遺伝子+誘導型プロモーター::Creリコンビナーゼ遺伝子」の両端にloxP配列を挿入
  • 転:Cre発現誘導→選抜マーカーを含むloxP配列間部位のゲノムからの除去より、技術的に課題解決
  • 結:植物の形質転換、遺伝子組換え作物に関する技術展望

といったストーリ付けの記載を心掛けるようにする。

最もオーソドックスな学習法である、専門書籍の読み込みも合わせて行った。読み込みを行った書籍とその理由は以下の通り:

もう少し深く理解したい人のためのバイオテクノロジー(地人書館)
新 バイオの扉(裳華房)

私も生命科学を専攻し学位を取得し、生物工学の研究支援企業に勤めているが、広範に渡るバイオワールドの僅か数分野と関わった程度である。技術士の生物工学部門もまた、バイオの全てをカバーしているわけではなく、厚い分野と薄い分野があるはずである。生物工学部門の技術士の方々が執筆した対策書を研究することにより、生物工学部門の厚い分野とその内容理解の取り掛かりとすることができると考え、3,800円とやや高価であるが本書籍を選択した。後述するが、その結果は最高といえるものであった。私の合格後に出版された、新 バイオの扉も生物工学部門の技術士陣が執筆しており、対策書として大いにお勧めできる。

 

 

新生物化学実験の手引き 全4巻(化学同人)
20年弱前の古い実験手引書であるが、哺乳類個体の細胞・遺伝子を扱った経験に乏しかったので再読した。自身で弱いと思っていた領域であったので、本番に向けて大きな自信となった。精神安定剤だったのかもしれない。

Essential 細胞生物学 第2版(南江堂)
生物工学部門の過去問研究から、大学・大学院レベルの教科書的なキーワードからも出題されることが分かっていた。そのため、自身の修士課程のころの教科書(当時は第1版がでたばかりであった)を再読した。細切れではない文章を読むことは、長文である筆記答案を作成する上でも、良いことであると考えている。無意識に、表現や言い回しを本から借りてくるという効果も期待できる。こちらも後述するが、本番でドンピシャの内容が出題されることになる。筆記試験に必要な知識を確認するために、同じ教科書のMolecular Biology of the Cellを使うほどではないと思う。

 

平成30年度技術士第二次試験「生物工学部門」解答事例集-12事例つき-必須科目全解答解説つき(新技術開発センター)
平成29年度技術士第二次試験「生物工学部門」解答事例集-14事例つき-必須科目全解答解説つき(新技術開発センター)
平成28年度技術士第二次試験「生物工学部門」解答事例集-18事例つき-必須科目全解答解説つき(新技術開発センター)
筆記試験問題解説本である。必須科目Iの解説は私が執筆担当している。利用をご検討頂ければ幸いである。

詳細情報・ご購入は、書籍画像をクリック

7月後半はかなりの時間を試験対策に要することになるが、逆に言えばこの時期になるまで計画的に勉強をしていなかったともいえる。試験前の8月2-3日の木曜・金曜は有給休暇をとっての追い込みの直前対策を行い、本番前日の土曜日は、比較的余裕をもって過ごすことができていた。直前の余裕は、経験的に合格のサインである。さらに、現在業務で扱っている次世代シーケンシング技術はアプリケーションの幅が広く、かなりの広い分野からこのサブジェクトに落とし込むことが可能であり、そういう面では当初から安心感はあった。

筆記試験日

試験会場は、以前住んでいた池袋にある東京電子専門学校。FP技能士受験で実際に入ったこともあり、精神的余裕に繋がった。8月5日という夏の盛りであり、酷暑であったが試験室内は適切な空調状態に保たれており、不愉快なことは一切なかった。許可されたペットボトルの水500 mlを持ち込んでの試験開始である。

午前中は 必須科目2時間30分で1,800字の筆記試験、細胞遺伝子工学・生物化学工学・生物環境工学の各分野1問の合計3問から1題選択は例年通りの形式。細胞遺伝子工学分野からの出題は、なんとオミックス!プロテオミクス解析からのスクリーニングを起点に学位を取り、メタボロミクス的解析でポスドク時代を過ごし、現在ゲノミクス解析で飯を食う私には死角が無い、無さすぎる!

  1. オミックス概要
    オミックスを定義し、ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクスを簡単に説明
  2. ゲノミクス技術
    次世代シーケンシング技術
  3. プロテオミクス技術
    二次元電気泳動+MALDI TOF MS
  4. メタボロミクス技術
    ガスクロ+MS, NMR
  5. ゲノミクス方法論
    SNPやメチル化状態を指標に、オーダーメイド医療やコンパニオン診断の方法論
  6. プロテオミクス方法論
    新薬標的の分子探索方法論
  7. メタボロミクス方法論
    薬物動態・代謝のモニタリング方法論と毒性学
  8. 統合オミックス技術展望
    次世代新薬創出の基幹技術となることを展望として結論

これでも時間が1時間以上余ってしまったので、答案を見直したり、クールダウンしたり、突っ伏して寝たりして試験終了を待った。

コンビニで買ってきた菓子パンを軽く食べて昼食とし、午後の 選択科目3時間30分で3,600字の筆記試験に挑んだ。午前に比べると、圧倒的に余裕が無い。3問中2問選択であるが、3問目のプロバイオティックスの問題は、次世代シーケンシング技術や、専門職大学院でのビジネスプランの一部に取り込んだPCR DGGE法と非常に相性が良い問題であったが、プロバイオティクスの語定義ができないために泣く泣く解答回避。しかしこの問題は、微生物に関わる製薬・食品関係者には極めて幸運な問題だったのではなかろうか。

1問目の順遺伝学(Forward)と逆遺伝学(Reverse)はまさしく教科書的な問題で、上述の通りの対策できており非常に有利に働く。さらにReverseの解析手法には、お得意の次世代シーケンシング技術が適用可能であり、論展開も楽であった。さらに技術士の重要キーワードである技術者倫理についても、人間でのForwardの不可能具合(今思うと、ジェノタイピングベースのコホート解析は、Forward & Reverseなアプローチと言えるのか?)に言及できたりして、なかなか良い感じの論述回答となった。

2問目は抗生物質の問題で、各抗生物質の作用点と薬剤耐性の獲得機序などは、まさに「もう少し深く理解した人のためのバイオテクノロジー」に書かれていた内容がそのままでした。小問2問は簡単にこなしたが、最後の小問が難問である→「基質アナログを定義し、その耐性変異株を有効活用した生物工学的技術を述べよ」。後段がパッと思い浮かばないので、冷や汗をかきながら前段を論述、耐性変異株の有効活用って何だ?耐性変異株の有効活用って何だ?…筆耕の途中で閃光が走った「植物のシキミ酸生合成経路・ラウンドアップ・ラウンドアップレディ」これだー!モンサント社のラウンドアップは植物の5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素の基質アナログたる特異的阻害剤、ラウンドアップレディはアグロバクテリウムから単離された基質アナログ非感受性酵素で、これを組み込んだ植物が耐性変異株だから、有効活用は…!この瞬間、筆記試験の合格を確信した。もちろん、最後の小問についても「もう少し深く理解した人のためのバイオテクノロジー」に解答のキーとなる記載がされている。

最終的に時間は30分も余ることは無かったが、納得のいく答案を提出することができた。6時間の試験時間で1度もトイレに行くことも無く、一度もペットボトルに口をつけることは無かった。それほど、集中していたのであろう。その日の夜は友人と飲みに行ったが、そこでのビールの美味しかったこと、美味しかったこと!

3. 秋の技術的体験論文

8月のお盆明けまでは、試験疲れで積極的な活動を行うことはできなかった。8月後半からは趣味であるアウトドア活動を再開させ、浅間山や金峰山の登山を通じての心身のリフレッシュに努めた。秋からは日常業務と余暇のアウトドア活動に専念し、試験のことは忘却の彼方にあったのが実際のところ。10月後半はまたしてもドイツへの海外出張があり、10月25日の筆記試験合格発表は国外で見ることとなった。昼間の仕事が終わり、長時間の飲み会という夜の仕事(こっちの方が実はキツい)の間に一瞬ホテルの部屋に戻ることができる時間があり、ここで筆記合格を確認した。その日の夜の仕事は、たいへんな絶好調である。ただし、技術士の英訳であるProfessional Engineer (Japan) の試験と言っても、欧州人だけでなく北米人でさえ(全員Ph.D.ホルダー)変な顔をしてばかりだったのは印象的でした。でも、「ペーパーステップ合格めでたい!」と大いにお祝いしてくれた。ただし生物工学部門の筆記合格率が48%と非常に高く、口頭試験で自分も含めて大量に落とされるのでは…という不安は頭をよぎっていた。

添削で指摘された点を修正しつつ、構成を練り直した半完成の状態で、8月後半から技術的体験論文(3,000字)は放置されていた。一度提出されると差し替えは効かないらしいので、締め切り直前まで特に仕上げたりすることはなし。11月7日が提出締め切りと思っており、直前でないと動けない私は、6日の夜に一気に仕上げれば良いと思っていた。6日の朝に、念のため論文提出締切日をネットで確認したら、その当日である6日が締め切りであることを知り大ショック!一気に体調・気分が悪くなり、勤務先に連絡を入れ午前中半休とする。寝巻のままパソコンに向かい、昼前まで口頭試験を見据えての技術的体験論文の最終調整。技術課題に対して技術士たる創意工夫により解決を行い、将来展望する記載を散在・強調させ、大丈夫そうな状態に仕上げる。昼休み時間帯の日本技術士会(神谷町)に技術的体験論文を直接提出。その場で字数などの方式審査が行われ、無事に受理される。二次試験で一番危なかったのは、実はこの日だったのかもしれない。

筆記試験での図の使用は勧めませんでしたが、生物工学部門であっても技術的体験論文では、試験官の理解を助けるための図表は必須だと思うところであり、私も実際に4枚の図を使用した。かつては筆記試験の一部にも組み込まれていた技術的体験論文だが、2012年度を最後に試験から省略される(願書とともに提出する、720字で図表無しの業務内容記載は残るようですが)。受験申込書の経歴欄と合わせて、自身の技術業績棚卸の良い機会と思っていたので、この変更は若干残念に思う。

4. 冬の口頭試験

試験対策

口頭試験は、12月8日土曜日午前中に渋谷のフォーラム8という場所で行うことが通知されていた。試験前日までに想定解答を用意しておいて、例のごとく前日金曜日に有給休暇を取得して、直前練習するという作戦をとった。準備した想定解答は以下の通り:

技術士とは何か?

  1. 技術士とは何か?
  2. 経歴確認(2分)
  3. 受験動機
  4. 技術的体験論文の1例目内容説明(3分)
  5. 技術的体験論文の2例目内容説明(5分)
  6. 技術的体験論文の周辺技術
  7. 技術的体験論文中の技術士にふさわしい点
  8. 技術的体験論文内容の応用と産業化
  9. 業務体験に関する成功例・失敗例
  10. 海外業務体験・対外発表体験
  11. 筆記試験記載内容の怪しい部分の再確認
  12. 技術士の3大義務と2大責務
  13. 技術士の10の倫理要綱
  14. 近年の技術者倫理に関する話題
  15. 技術士となっての抱負

以上の1-5くらいまでは、Wordで台本を作っておいた方が無難だと思う。技術的体験論文の主題技術についての復習や最新技術動向などについても入念に調べることが必須であることは間違いないが、このあたりは簡易に済ませてしまうことになり、実は本番で冷や汗をかく。

前日のプレゼンの練習では、2, 4, 5について合計10分で淀みなく説明できるように特訓した。途中で気持ち悪くなってきたが、最後の試練とばかりに己を奮い立たせて練習しまくった。ここでは技術的体験論文に予め組み込んだ「抽出された課題に対して創意工夫をして解決したから、自分は技術士に適格である」という点を強調するようなプレゼンを意識した。例えば、「当初は候補蛋白質の抗体を用いて、候補について1つ1つ個別に解析しておりました。ここで技術士としての課題解決能力を発揮しました。当時プロテオーム解析として注目されていた~」「しかしながら、この方法で測定した窒素飢餓条件下での蛋白質合成活性は、野生株よりアミノ酸が枯渇しているはずの変異株の方が高いという予想と逆の結果でした。そのデータ解釈には技術士としての創意工夫を要しました~」のような、若干(かなり?)露骨な話の繋ぎ方を採用し、技術士としての素養を試験官にアピールする戦略となった。

 

口頭試験日

当日は余裕をもって渋谷に到着し、カフェで朝食をとりつつネットから皆に応援されながら試験会場であるフォーラム8に入った。ここは、予想に反して古いビルである。会場内の雰囲気は流石にピリピリしており、控室であるホールで時間をつぶすのは流石に厳しく、自分の試験室の前で座して待つ。予定開始時間の少し前に中から試験官が一人出てきて、入室を促される。45分間の口頭試験の開始である。

互いに反対向きに椅子が2つ置かれており、正面に対して逆向きの椅子に荷物を置き、お辞儀、受験番号と氏名を述べて、挨拶。着席を促される。試験官は男性3名、正面の主任は大学教授風、向かって左の試験官はシニアな方、向かって右の試験官は若手の技術士っぽい様子。雑談は無く、いきなりの口頭試験開始だった。

主任試験官:
経歴と提出論文に記載した2つの技術体験について10分で述べてください。

回答:
指示に対し、想定解答に身振り手振りを加えて、主として主任試験官に対してプレゼン。おそらくは10分ちょっとで説明終了。

主任試験官:
受験動機と技術士になったら将来的にどうするか?

回答:
当然の想定質問であるので問題なく対応。

主任試験官:
生命科学の研究はグループで行われることが多いが、今説明した仕事は貴方が主体的に行ったことなのか?

今述べた技術的体験は、受験者自身の業績であるのか?このことを様々な質問により確認し正してゆくのが口頭試験の目的の一つであるはずだが、あまりにも直球な質問が来たようだ。

回答:
体験論文中の発表論文の引用を見てください、2つの事例のいずれも、私と教授の2名オーサーでの発表となっております。教授は、最終的な論文投稿時には内容の確認を行いますが、研究の仮説立案や技術的な課題解決は私一人が主として行っておりました。

やはり、発表論文が有ると説得力があり強い。「経歴及び応用能力」は〇か?

左試験官:
当時の研究テーマ内容について、2-3の一般的な質問。

回答:
質問内容を確認しつつ落ち着いて回答。実のところ、当時の研究分野の特に哺乳類のケースについてはあまり明るくはなく、アポトーシスとの関連とか訊かれても、実は正直よく分からない。しかし今は口頭試験であるので、自信をもって落ち着いて、良く分かっていないことをさも分かっているように回答した。

十分な理解なく質問したようであり、突っ込み・炎上に至ることなく無事に「体系的専門知識」に関する質問をクリア。

主任試験官:
最後の技術展望で、細胞が死滅するメカニズムの解明について書かれておりますが?

回答:
私の後を引き継いだ者が…と以降の研究展開について体験論文を補う形で簡単に説明。2011年に続報論文が発表され自分が第2オーサーであることを強調。

研究がさらに展開し、以降の論文発表があったことに面接官は感心している様子。これで「技術に対する見識」の項目もクリアか?

細かな質問をクリアしてゆくと主任が、今まで黙していた(向かって)右の試験官に、「技術者倫理」と「技術士制度の認識その他」に関する口頭試問をするように促す。

右試験官:
上からデータの捏造のような反倫理的行為を指示されたらどうするか?

回答:
技術者倫理に関する試問は、意外とスマートに答えづらいが愚直に、指示に屈せず、社会的な利益を守る旨を回答。

右試験官:
技術士が、一般の技術者よりも責任を負っている点は?

回答:
信用失墜行為の禁止や、機密保持の厳守など法律での規定があり、通常の技術者に課されない刑事罰も規定されている(機密保持違反に対して、と言うのを忘れた)。

右試験官:
技術士としての継続研鑽(CPD)についての、貴方の取り組みは?

回答:
生物工学の分野は特に技術進展が早く、一瞬で技術が陳腐化する。来週も分子生物学会に参加するが、外部セミナーや学会などに積極的に参加して最新の科学技術動向に接するようにしている。また、生物工学部会にも積極的に参加している。

主任試験官が左右を見て、もういいか?と確認している。そして総括を含めた最後の質問。

主任試験官:
この試験を通して、貴方は細胞遺伝子工学というよりは生物化学工学の分野に近いのではないかと思ったのですが?

最も危険といわれている、選択科目ズレに関する指摘が入ってしまった。だが主任の発言は疑問形であるので、私からの最後の弁明の機会でもある。

回答:
最終的に提示したデータについては生化学的な解析手法を用いる形とはなっているが、そこに至る過程では遺伝子工学・分子生物学的技術が多用されている。そして、私は常に「細胞」という単位を意識して研究を行ってきていることは、本日お話しした通りである。

と、弁明したが、私が細胞遺伝子工学の技術士として適格であるという回答になったかは、極めて疑問である。

主任試験官:
試験を終わります。

既定の45分に対して、30分ちょっとで終わってしまった。礼を述べて、お辞儀をして退出。最後の質問があまりにも重く、筆記試験のときのような受かった!という爽快感は全くない。昼過ぎには帰宅し、以降悶々とした冬シーズンを過ごすことになる。

5. 春の最終合格発表

12月ごろは、技術士の3義務2責務も訊かれなかったし、科目不適合で不合格だと思って落ち込んでいた。1月ごろになると、どうだか分からないなという気分になっていた。2月になると、なんとなく受かっているような気分となってきたので、九段下の法務局で登記されていない証明書を請求し、本籍地の役所で身分証明書を手に入れ、技術士登録の準備を着実に進めていた。

暖かくなってきていた週末明けの3月4日月曜日早朝5時から、布団の中、スマートフォンで何度も発表ページをリロードしていたが、5時50分過ぎにページが更新された。布団から飛び出て、パソコンで自分の番号を確認。喜びの爆発というより、脱力するような安堵が先に来たというのが正直なところ。ネットで合格を報告し、祝福の嵐を受ける。会社で官報上の自分の名前を確認してから勤務先経営者に報告し、勤務先を技術士事務所にする旨の書類に社印を貰う。ほどなく合格証が届き、数日間は祝杯と称して飲んだくれていたが、技術士登録証が届いてからは責任ある立場として気持ちを新たにし、技術士としての職務に取り組みはじめた。「技術士って、何なのだろう?」という根源的な問いとともに。

受験記、以上

 

6. 参考資料

参考資料1
生物工学部門の二次試験受験者数・合格者数・合格率

生物工学部門:
2011年度一次合格率 37.5% × 2012年度二次合格率 38% = 最終合格率 14.2%
総監以外20部門:
2011年度一次合格率 21.4% × 2012年度二次合格率 14.8% = 最終合格率 3.1%

合格率が年々上昇傾向の生物工学部門は、合格しやすい部門と言える。日本技術士会の生物工学部会の例会に参加すると、さらに情報収集も捗るだろう。

2017年3月現在の情報。

参考資料2
技術士登録までに必要な諸費用

技術士試験

  • 第一次試験の受験手数料:11,000円
  • 第二次試験の受験手数料:14,000円

合計:25,000円から。詳細については、日本技術士会の試験案内を参照。

技術士登録

  • 登録免許税:30,000円
    収入印紙での納付、金券ショップで若干安く購入可能
  • 登録手数料:6,500円
    銀行振込
  • 登記されていないことの証明書の発行手数料:300円
    九段下の法務局での価格
  • 身分証明書の発行手数料:300円
    本籍地の役所での価格

合計:37,100円程度。詳細については、日本技術士会の登録案内を参照。

公益社団法人日本技術士会への入会費用(任意加入団体)

  • 入会金:10,000円
    準会員歴が1年以上ある場合、全額免除
  • 年会費:20,000円

合計:20,000円か30,000円。詳細については、日本技術士会の入会案内を参照。

2017年3月現在の情報。

参考資料3
技術士(生物工学部門)の公的活用と公的資格取得上の特典

  • 総務省 消防法
    消防設備士試験(甲種)の受験資格を認定
  • 厚生労働省 労働基準法
    労働契約期間の特例(専門的知識等を有する労働者)
  • 厚生労働省 労働安全衛生法
    労働安全コンサルタント試験の受験資格を認定
  • 厚生労働省 労働安全衛生法
    労働衛生コンサルタント試験の受験資格を認定
  • 厚生労働省 作業環境測定法
    作業環境測定士試験(第1種・第2種)の受験資格を認定
  • 厚生労働省・環境省 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
    廃棄物処理施設技術管理者資格要件の一部認定(1年以上の実務経験要)
  • 経済産業省 特許庁 弁理士法
    弁理士試験の論文式筆記試験(選択科目)免除
  • 経済産業省 中小企業庁 中小企業支援法
    中小企業・ベンチャー総合支援事業派遣専門家として登録される専門家
  • 裁判所 民事訴訟法
    公益社団法人日本技術士会からの鑑定人・専門委員・調停委員への推薦
  • 大阪府・埼玉県・千葉市・市原市・川崎市・那覇市他
    廃棄物処理施設の技術管理者(1年以上の実務経験要)
  • 東京都 環境局 都民の健康と安全を確保する環境に関する条例
    東京都1種公害防止管理者講習会の受講資格

2017年6月現在の情報。

参考資料4
技術士試験(生物工学部門)に関する貴重な情報が得られるサイト

  • 技術士への道
    1998年合格のKicchann技術士による、合格体験記。圧倒的な記述力に引き込まれる。

参考資料5
技術士第二次試験合格者のへのメッセージ

公益社団法人 日本技術士会から依頼を受けて、若手会員である私からのメッセージを記した。

真剣なれど暖かきギルドたる、生物工学部会に惹かれました。基礎から産業分野まで、バイオ技術から人的資源管理まで幅広いレンジの講演による勉強会。そして、夜遅くまでの懇親会でのホロ酔い討論を通じて、最新情報のアップデートと人脈形成ができるのが代えがたい魅力です。人数もそう多くはないため、人と人との交流をゆっくり深めることができ、さらに技術士同士の信頼関係から成しえる共同研究やビジネスが花開くこともあるかもしれません。現状の枠組みから飛び出して、日本技術士会の活動に参加されてみてはいかがでしょうか。

2014年3月の初出。

参考資料6
こういう人は、技術士になれないかも?!

生物工学部門の若手技術士有志が、日夜ネット上で議論を重ねた上での一つの見解である。

  • 自分の頭で考えない、非主体的な指示待ち技術者。
  • 他人の助言を聞かない、謙虚さを欠いた技術者。
  • 訊かれたことに答えず、言いたいことだけ言う技術者。

2017年1月の生物工学部会例会で初出。その後、日本農芸化学会2017年度大会を含む複数の講演で披露された。

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